「ごくろうさま」
今日も無事に手元に届けられたカモメ便の新聞を手に、 あたしは朝食を作っているサンジ君の居るラウンジに向かった。
「おはよう、サンジ君」
黒いエプロン姿で香ばしい匂いを漂わせてフライパンを振っていた サンジ君は、あたしの声にすぐに振り返った。
「おはよう、ナミさんvv今朝も早いねvv」
相変わらず鼻の下を伸ばして愛想笑いを浮かべる彼に、 あたしも笑って頷いた。
「今すぐ珈琲、煎れますねvv」
「ありがと、サンジ君」
サンジ君が珈琲を煎れてくれるまでに、あたしは先刻受け取った 新聞を開いて一番の記事に目を落した。
手紙
「ナミさん、そう言えばコレ…今朝速達で来てたよ」
熱々の珈琲をゆっくり啜って、のんびりしていたあたしに、 サンジ君は思い出したように一通の手紙を差し出した。
白い封筒にはカモメ便の切手が貼ってあって、そこには「速達」の印が押してある…。 差出人は…
「ノジコッ!!」
オレンジ色のインクの見なれた字体で書かれたのは、ココヤシ村の住所と、 懐かしい名前。
「お姉様からだろ?速達で届いたから部屋まで持って行こうと思ったけど」
サンジ君の台詞に適当に答えて、あたしは早速、ノジコからの手紙の封を切った。
******
久し振りね、ナミ。 元気にしてる?なんて、定型文でゴメン!当たり前ね、あんたが元気なんて… いきなり速達であたしが手紙なんか送ったからビックリしたでしょう?
ノジコの手紙に、あたしは懐かしい気持ちで一杯になりながら、 ゆっくりゆっくり目を通していった。
内容は、
ココヤシ村の近況。 復興した村の、元気な様子…ベルメールさんの蜜柑畑の手入れを、 小さな男の子と一緒に頑張ってる事…。 ゲンさんは相変わらずの風貌で、皆を見守っててくれて…。 それから……
明日は、ベルメールさんの誕生日…。
ノジコの手紙に、はっとして…あたしはラウンジの壁に掛かってあるカレンダーに 視線を走らせた。
明日の日付けには、オレンジ色のインクで蜜柑のマークが描いてある。 この船に乗って、各部屋に貼ったカレンダーにあたしが描き込んだ大切な日。
「……もう…明日なんだ…」
だから。 大切な日だから、ノジコは手紙をくれたんだわ…。
あたしが…なんの心配もない気持ちで、ベルメールさんの誕生日を祝えるように…。
「ナミさん、何が明日なの?」
すっかり朝食の仕度を終えて、あたしの椅子の向側に座って珈琲を啜りながら、 サンジ君が控えめに問い掛けてきた。
「明日は…大切な人の誕生日なの…」
手紙を読み続けながら答えて、あたしはサンジ君に小さく笑った。
「ココヤシ村のね、近況報告。アーロンがいなくなって…やっと元に戻ったの…」
「へぇ…」
サンジ君も、あたしの台詞に目を細めて、珈琲の匂いの呟きを洩らした。
「蜜柑の収穫も終わったって…それから…アーロンパークのあった場所には、 もうすぐ何か大きな建物が出来るみたい。村の皆で話して、蜜柑畑も作ってくれるって」
「そいつぁ凄いな…あの広さならきっと凄いのが建つぜ?」
「ふふ…」
ノジコの手紙を綺麗に折って、あたしはサンジ君に顔を上げた。
「ねぇ…サンジ君、お願いがあるの…」
「はいvvナミさんの頼みごとなら何なりとvvv」
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