先刻。

俺がグラスから零した水滴に

店内の明かりが集まって、小さいミラーボール

みてぇにキラキラしてる。

ブラックライトの中だから、もうこの水滴の元が

何色だったかなんてのは忘れちゃったけど…。

 

 

2/14

 

 

「やけに不機嫌だな、エース…」

 

その水滴の傍を、コツコツと音を立てて

俺の指先が叩くのに気付いて、目の前でシェイカーを

振ってた男が声を掛けてきた。

 

「……」

 

その見透かしたような台詞に軽く眉を寄せて、

俺はグラスに残った液体を喉に流し込んだ。

 

―――ぁあ…オレンジジュースだったけ…―――

 

酒だったら格好良かったのにな、なんて思いながら

それでも飲み干した液体に満足して、俺はグラスを突き出した。

 

「お代わりか?金はねぇんだろ、お前」

 

「後で親父に言っといてよ、払ってくれっから」

 

俺の台詞に可笑しそうに笑って、シェイカーからオレンジジュース

を注いでくれた。

 

「何だ、もう作ってたんじゃん…」

 

「お前の行動はお見通しだ」

 

注がれたジュースを飲もうとグラスに口を付けると、

目の前のカウンターに身を乗り出して、俺の顔の高さまで

視線を落としてきた男と、目が合った。

 

「……シャンクスと喧嘩でもしたか?」

 

「……ッ…」

 

額から左目尻を通って米神まで入った十字の傷には

特殊な塗料を塗ってるらしく、店内のブラックライトに反応して

蒼白く浮かび上がる。

その傷のすぐ傍の瞳を笑みに歪めて、もう一度

 

「お前の行動はお見通しなんだ…」

 

って、呟いた。

 

「喧嘩した訳じゃねぇ…」

 

俺はグラスを握り締めると、唇を尖らせて俯いた。

 

 

 

 

******

 

 

「何だ、エース…お前また勉強してんのか?」

 

先にシャワーを浴びたシャンクスが、湿った髪をタオルで

拭いながらリビングで教材と格闘中の俺に声を投げてきた。

 

「……一昨日からテスト期間だって言ったじゃん」

 

シャンクスを見上げてそう告げると、アイツは「ぁあ」

って言ってタオルを肩に掛けた。

 

「学生さんは大変だなぁ…何教科?」

 

「20」

 

「ぅわ、また結構あんな…頑張れよ?」

 

そう言って俺の頭をよしよし、って撫でて

シャンクスはそそくさと寝室に入ってった。

 

 

******

 

 

「それで何で喧嘩なんだよ」

 

俺の話しが一区切り付いたのを悟ると、カウンターに

乗り出したまま首を傾げて更に問い掛けてきた。

 

「……だから喧嘩した訳じゃねぇんだって」

 

俺はそう言ってからやっとオレンジジュースを口に含んだ。

小さい氷の粒が入ってる俺のお気に入りのそれを

飲み干して、目の前の瞳に向き合った。

 

「それから・…」

 

 

******

 

参考書を買いに入った本屋で、お目当ての本を手に

レジに向かった。店員はバイト君みてぇで、初々しい笑顔で

「1285円になります」って言っ……「そんな事はどうでもイイ」

 

途中で遮るベックに小さく笑って、俺は手をヒラヒラと振った。

 

「ちゃんと続きを聞いてよ、俺さ、そん時1200円しか持ってなくって…」

 

「大学生が財布に1200円しか持ってなかったのか?」

 

「小遣い前なんだって」

 

すっかり反れた話しに可笑しそうに笑って、俺は続きを話した。

 

「すっげ困ってたら…本屋の向かいの喫茶店でシャンの頭が見えて…

金借りようと思って俺、喫茶店に行こうとしたんだ」

 

そしたら…

 

「綺麗なお姉さんと…一緒で…」

 

「……アイツは浮気はしねぇぞ?」

 

途中で割って入ってきたベックの台詞に、顔を上げて

唇を尖らせた。

 

「でも密会は密会だ」

 

「エース…」

 

「俺が・…ッ、テスト頑張ってんのに!一回くらい『俺も付き合ってやっか?』

とか言って一緒に徹夜して欲しかったのに!すぐ寝ちまうし朝は俺より寝て

見送ってもくれねぇし…昼間は綺麗なお姉さんと密会だし!!」

 

一気に喋った台詞の半分は下らない我侭だって解ってる。

 

本当に徹夜付き合って欲しいなんて思ってねぇよ。

でもちょびっとくらい…俺が寝るのを待ってて欲しいって思ったりしちまったんだ。

 

「……落ち付けよ、エース…」

 

そう言われて、新しくグラスが差し出された。

 

「何…これ」

 

「……あっちのスミっこの客からお前に。」

 

「あっち…」

 

ベックに言われるままに店内の隅にあるテーブルを見ると、

見なれた笑顔が俺に手を振ってて。

 

「……シャン…」

 

俺が呟くと、それが合図みてぇに立ち上がって、シャンクスは

俺のカウンターまで歩いて来た。

 

「よう!テストお疲れ」

 

「……うん」

 

そのまま俺の隣りに座って、シャンクスはベックに顔を向けた。

 

「ったく、折角エース見付けたのにベンちゃんはスミっこに行けッつうし

ボソボソ何話てっか解んねぇし…」

 

わざとらしい溜め息を洩らして、シャンクスはカウンターを指先で叩いた。

 

「挙句、いきなりでっけぇ声で何言い出すかと思えば…」

 

そう言って俺の方を向くと、小さく笑って俺の髪を撫でた。

 

「かぁわいいの♪」

 

へら、と笑ってそれだけ言うと、シャンクスは先刻のグラスを薦めてきた。

 

「・…あい、コレは俺の奢り」

 

差し出されたグラスの液体を見詰めて、ベックの方を見上げた。

 

「シャンクスのお気に入りだ…『X.Y.Z』つってな…コイツが奢りなんて

珍しいんだ…飲んどけ、エース」

 

「……サンキュ」

 

薦められるままに、喉に流したその味はやっぱり酒で…。

しかも…。

 

「キッツ…;」

 

「はは、やっぱまだエースには早かったか?」

 

相変わらずヘラヘラ笑って、シャンクスは俺のグラスにちょこっと残った酒を

飲み干した。

 

「さて、説かなきゃなんねぇ誤解もあるし…そろそろ帰るぞ、エース」

 

シャンクスに手を引かれて、立ち上がるとベックを見上げた。

 

「ご馳走様、ホントに親父に言っててな?ジュース代」

 

「ぁあ、解ってるよ…おやすみ、エース」

 

「じゃあな、ベンちゃん!」

 

簡単な挨拶を交わして、俺たちは店を後にした。

 

 

*****NEXT*****

 

バレンタインSsに書いてたのに…(汗)

続きものになってます。

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