最近、港に一隻の海賊船が停泊した。

マストに掲げられた髑髏には、左目に3本の傷。

この村に海賊が停泊するのは3年振りで…。

別に無視するでもなく、海賊なんてのは酒場さえあれば

不自由する事はないから、村の皆も対して気には止めなかった。

そんな中で一人、毎日毎日海賊の集まる酒場に顔を出しているのは

俺の可愛い弟…。

 

約束

 

 

「マキノ、ごめん!遅くなって」

 

酒場の店主のマキノから電電虫で連絡があったのは夕方だった。

どうやら酒場で海賊達と遊んで(?)いるウチに寝入ってしまったらしい。

バーカウンターですぅすう寝息を立てるルフィに目をやって、俺は持ってきた

タオルケットを肩に掛けてやった。

「いいのよ、エース。ごめんなさい…今日は残ってやらないといけない片付けがあったから

ルフィを送っていけなくて…」

済まなそうに首を傾げるマキノに、俺も首を振った。

「いいんだよ、コイツが勝手に寝扱けてんのに、マキノがわざわざそこまでしなくても」

タオルケットを掛けたルフィを背負って、俺はマキノに振りかえった。

「今日も海賊と話してたんだって?コイツ」

一度体を持ち上げるように跳ねさせて、俺は小さく呟いた。

「…え?そうね…楽しそうに冒険の話しを聞いていたわ」

クスクスと微笑するマキノに、そっか、と俺も笑って答えた。

「じゃあね、マキノ。わざわざありがと」

マキノに片手で手を振って、木製の扉を開けて外に出た。

夕日で真っ赤に染まった道を、ルフィをおっことさないように歩いた。

 

「よう…流石はお兄ちゃんだなぁ」

 

数歩歩かないうちに、後ろから微かに笑いを含んだ声がして、俺は声の方を振りかえった。

「まぁね…酒場で一人、寝かせてる訳にはいかねぇからな」

俺はすぐに進路方向に向き直って、家への坂道を歩き始めた。

「待て待て待てって!俺が運んでやっから」

いきなり慌てたように駆け寄って来たシャンクスは、俺の背中からひょい、とルフィを抱えて

に、と笑った。

右の肩にルフィを乗せたまま、咥えていた煙草を落として踏み潰すと

真っ赤な夕日に負けない赤い前髪を片手で掻き上げたシャンクスは、こっち?と

俺達の家の場所の方を指差して言った。

「……うん」

俺も小さく答えて、シャンクスの後ろから付いていった。

大きな背中に…背負われたルフィを見詰めたまま、無言で家まで歩いた。

マントに隠れたシャンクスの左腕が無くなったのは、二日前。

泣きながらマキノに抱えられて帰ってきたルフィは、真っ赤に泣き腫らした目で

俺を見詰めて

「絶対に海賊王になってやるんだ」って、言って泣き叫んだ。

 

「おい、ココか?」

シャンクスの声に顔を上げた先には俺達の家の前で。

俺は頷いてシャンクスの前に行くと、ポケットから鍵を取り出してドアを開けた。

「へ〜…結構いい家じゃねぇか…」

ルフィを抱えたままキョロキョロと辺りを見まわしてから、シャンクスは、に、っと笑った。

「コイツ、どこに寝かせんだ?」

ルフィの背中をポンポン、と叩いて俺に向き合ってシャンクスは言った。

「そこのソファでいいよ、ルフィのお気に入りだ」

あいよ、と返事をして、シャンクスはルフィをそこに寝かせ、落ちたタオルケットを掛けてやっていた。

「悪かったな、運んでもらっちまって」

キッチンからビールを持ってきてシャンクスに渡して、ソファに凭れるように床に座った。

「おいおい、子供の家にビールなんかあって良いのか」

プシっ、と蓋をあけて一口呑み、悪戯っぽい笑みを向けるシャンクスに俺もニカっと笑った。

「料理ようだよ、肉とか浸けとくと柔らかくなんだろ?」

「お前料理もすんのか?えらいな〜」

グビグビとビールを呑み干して、缶をテーブルに置くと、シャンクスは俺の目の前にしゃがみ込んだ。

「当たり前だろ?俺が作んなきゃ飯が食えねぇからな」

「ルフィはやんねぇのか?」

「ルフィは出来ねぇよ、それに俺が兄貴だろ」

「んで?その兄貴は何を拗ねてんだ?」

「・・・・・・」

「エース?」

俺はソファで寝こけてるルフィを見詰めた。

「……コイツはさ、もう…俺なんか要らねぇのかな…?」

「……ん?何でだ?」

同じようにルフィを見て、俺の言葉を聞き返してくるシャンクスに、俺の唇は止まらなかった。

「…あんたが来てから…ずっとルフィはあんたの話ばっかで…きっとコレから先も、こいつの見詰める先には

…シャンクスしか居ないんだよ…」

俺はルフィから目を離して、マントに隠れたシャンクスの左腕を撫でた。

「こんな事になったから…尚更…もう……ルフィは俺の背中なんか追っ掛けて来ないんだ…」

ずっとずっと…

俺の後ろに付いて来たルフィが…。

「もう……シャンクスの背中しか…見ないんだ」

こんな話をシャンクスにする自分が恥かしかったけど。

俺はシャンクスの左腕を撫でながら、小さく小さく、嗚咽を洩らした。

「……んな事ねえだろ…」

「……っぅ…」

「コイツ酒場でいつも言ってんぞ?エースは何でも出来て凄ぇんだぞって…」

「…ひっく……っ」

「喧嘩していっぺんも勝てた事ねぇし、飯も作ってくれるって」

「……」

「……いつか…エースも海に出るから…俺の目標はエースとシャンクスだ、ってよ」

涙を拭いて、シャンクスを見上げると…夕日に照らされた時よりも…深くて赤い瞳とぶつかって。

「お前の背中は、もうルフィの目ん中に入って来ちまってんだな…」

大きな手の平で、くしゃくしゃと髪を撫でられた。

「だから馬鹿な事思ってねぇで…な?エースはルフィの自慢のお兄ちゃんだろ?」

ニカっと笑ったシャンクスにつられて、涙目のまんま…笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「村の恥じゃ、海賊になろうなんぞ」

遠くで聞こえた村長の愚痴に、ニカっと笑って…。

小さな帆船から手を振った。

にこやかに手を振ってくれるマキノと…苦笑してる待ちの皆。

仏頂面の村長の隣りで、握りこぶしを握ってキラキラと目を輝かせているのは。

 

「頑張れよ!エース!俺も、絶対海賊になってなるからな〜〜っ!」

 

俺の可愛い、大事な弟…。

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