今夜は。

見張り台から見えるキッチンに、いつもより長く

明かりが点いている。

見上げた空に浮かぶ月と同じ、丸い円窓から

柔らかい光りが零れるのは、まだ其処に主が居るからだ。

明日の拵えをやってんだろうけどよ。

もう寒ぃんだから。

早く寝ちまえって、クソコック。

 

「……嘘ばっか…」

 

早く寝ちまえって思ってみた自分に小さくツッ込んで。

俺は目を瞑ると、さっき見張り台にアイツが持ってきた酒の入った

水筒を頬に当てた。

 

 

あったけぇ……。

 

中身は半分呑んじまったけど、魔法瓶とか言う水筒は充分ぬくい。

薄く目を開いて、はぁ…、と息を吐いたら白く残った。

キッチンには、まだ明かりがあって。

静かで、何も音が聞こえて来ねぇのは、アイツが隣りの女部屋を

気遣ってんのが解る。

そうじゃなくてもアイツはいつも、静かに仕事をこなせるけど、何て、また

自分にツッ込みを入れた。

また目を瞑って、思い描くのはアイツ。

 

 

この時期の水仕事ですっかり冷えた手を摩りながら、長い睫毛を伏せる。

なぁ、今もやってんだろ?見なくたって解るぜ?

壁に掛かった時計を見ながら、でっけぇ鍋掻き回して、嬉しそうにしてんだ。

今日も、その鍋が落ちついたら、洗いモン済ませて、キッチンから

出てくんだ。

 

 

 

 

『まだ居たのか?ご苦労だな、クソマリモ』

 

 

 

 

 

って、煙草のフィルター噛み潰して、格好つけたみてぇに髪を掻き上げんだ。

……馬鹿じゃねぇのか、俺ぁ…

んな事考えて、何が楽しいんだよ。

実に3回目のツッ込みを入れてキッチンに目をやると、すっかり明かりが

消えていて、俺は小さく舌打ちをした。

あの明かりが消えんの、見れなかったのが何やら無償に悔しい。

訳の解んねぇ敗北感。

と、鼻をつく匂い。

 

「よう、見張りご苦労さん」

 

舌打ちして俯いたままっだた俺の頭に、あったけぇモンが乗せられて。

美味そうな匂い。

 

「何勝手に登って来てんだ、テメぇ」

 

俺はコイツの気配に気付かなかったのが癪で、眉を顰めたまま言った。

 

「見張り台に来んのに一々テメぇの許可がいんのか、アホマリモ」

 

「……うっせぇよ」

 

「ほらよ、指し入れ」

 

そう言って、俺の頭に乗せられた器を目の前に出してきた。

 

「鍋焼きうどん、夜食に食わねぇ?」

 

ニカッと笑って蓋を開ければ。

俺の好きなモンがいっぱい入った器。

 

「……いただきます」

 

癪だ。

 

そう思いながら、エビの天麩羅を咥えたら、クソ美味ぇ?って声が聞こえた。

 

「……ぁあ、美味ぇ…」

 

適当に答えて、うどんの麺も掻き込む。

冷えた外気に触れていた冷たい体がポカポカしてきて、俺は無言で食った。

サンジは隣りで煙草を燻らせて、俺の食うのを見ながら小さく笑った。

 

「……テメぇ、卵潰さねぇのな……」

 

「……潰すのは好きじゃねぇ」

 

「潰したら美味いのに……」

 

「味変っちまうじゃねぇかよ…」

 

鍋焼きの具と麺を平らげて、スープを飲んだ。

 

「馬鹿…卵と混ざっても美味いように作ってんだよ」

 

何て言うサンジの声が聞こえたけど、俺は箸を持った手で器を持って

何を言われても、無視して残った卵をスープと一緒に飲み込んだ。

 

「あ〜…勿体ねぇの、飲んじまいやがって…」

 

わざとらしく嘆くサンジに笑って、ご馳走さん、と言って器を渡す。

受け取ったサンジは、それでも満足そうに笑ってた。

 

 

 

 

「……他に、欲しいもん…ねぇ?」

 

その声は小さくて、波の音に消されちまいそうだったけど。

ちゃんと聞こえた。

 

「……何で?」

 

珍しくコイツが俺にんな事言いやがるから、俺は怪訝そうに眉を顰めて聞き返した。

サンジはバツが悪そうにタバコのフィルターを噛み潰しながら、頭を掻いてる。

 

「……明日、テメぇ誕生日だろ?」

 

 

「あ〜…そうだな、明日か。すっかり忘れてたぜ…」

 

俺は残った酒欲しさに水筒の蓋を開けながら答えた。

琥珀色の酒を一口飲んで、考えるように空を見上げた。

 

「……欲しいもの、ねぇ……」

 

特にねぇ、何て言ったら、きっとコイツは怒るんだろうな。

 

『せっかく俺様が申したててやってんのに!』

 

とか何とか…理不尽な事で。

 

「そうだな…テメぇは俺に何をくれてやりてぇんだ?」

 

俺の台詞に、鳩が豆鉄砲食らったような面で見詰めてきた。

 

「……」

 

「………」

 

コイツの馬鹿面に小さく笑って、俺は「どうなんだ?」なんて更に意地悪く追求して。

おいおい、灰が落ちかけてんぜ?

 

「考えてなかった…つか、そうやって聞くの反則じゃねぇ?」

 

少しの間があってから、サンジは困ったように笑った。

 

「……じゃぁ、やっぱテメぇ貰っとくか」

 

自分でも呆れるくらい陳腐なことを言ってるのが解って,堪らず笑った。

でも知ってんだぜ?

テメぇはこんな腐れた台詞でも、ちゃんと解ってんだろ?

冗談で、俺がこんな事言わねぇってこと……。

 

だって顔真っ赤にして、それでも仕方ねエなって笑ったテメぇの顔。

すっげぇ……可愛かったからよ。

何て…

やっぱ俺イカれてんじゃねぇか?

 

コレで4回目。

 

たまにはこんな自分も悪くねぇかな。

丁度よく明るい月の下で浮き上がる、コイツの白くて綺麗な肌に

酔って。

乱れて…。

乱してやんだ…。

 

誕生日前の、一個大人になる前の、最後の悪戯を楽しむような行為。

テメぇをこんな風に抱くのは、今日で終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ…はぁ、」

 

紅潮し胸を上下させながら、俺の上で息を乱すサンジの髪を梳く。

いくつも付た緋色のキスマークを撫でる俺に、小さく「変態」なんて呟くサンジに

はは、と吹き出した。

 

「テメぇ、夜が明けて最初の台詞か?それ。普通『誕生日おめでとう』だろ?」

 

くく、と笑う俺に軽く膝蹴りをくわせて、乱れた衣服に手を掛ける。

ネクタイを締める手が、止まって蒼い目が俺に向いた。

 

「………好きだ、ゾロ」

 

泣きそうな目で、消えちまいそうな声で。

そう言ったアイツを、強く強く抱き締めた。

 

「…………俺も好きだぜ、サンジ」

 

宥めるように髪を撫でながら耳に囁けば、見上げてくるサンジの額にキスをした。

 

「…ぶっちゃけると、その台詞、すっげ欲しかったり…」

 

何て、馬鹿馬鹿しくって斬りたくなる自分の台詞に、サンジも流石に呆れたように

笑った。

 

5回目のツッ込み。

 

 

 

「もう昨日みてぇな抱き方はしねぇからな」

 

「……どんな抱き方だよ…」

 

二人で洗面所に向かって歩きながら、俺は誓いを立てるように言った。

 

「どんなって…あ〜…だから、”とりあえずテメぇを貰うか”みてぇな?」

 

「……はぁ…」

 

俺の台詞に呆れたような返事を返して、テメぇは救い様のねぇアホだな、

何て言ったサンジに構わず、俺は上機嫌だ。

 

もうツッ込む気にもならねぇ馬鹿な俺。

とにかく、欲しいものに関しちゃ馬鹿になっちまうんだよ、人間なんて。

だって呆れた顔してやがっても、テメぇの嬉しそうな目、気付いてっか?

 

*****END*****

 

 

 

何だ、コレ(笑)ゾロ誕用にゾロサンを書こうvvとか思って書いたら馬鹿な話に…

タイトルも決まらず、卵って…(死)ので蔵入りさせてたんですが、

ゾロサンゾロ少ないんでアップ(笑)

あ〜…もうコレはカッコイイゾロ好き〜な方には殺されそう(汗)逃げよう;

  

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