・・・・Knife・・・・

 

ああ、この道具は俺を生かすためのものだ。初めてナイフを手にしたとき、そう思ったのを覚えている。


「なーサンジって、なんでコックになろうと思ったんだー?」
自分について”自動メシ出し機”くらいの認識しか無いだろうと思っていた船長がそんなことを言い出したので、サンジはその満杯にまで
食べ物の詰まった顔をまじまじと見つめた。そしてほんの少しだけ考え、軽く口の端を上げて答える。

「ばーか、オレのこの魂の奥から溢れ出す料理人の才能を、神が見過ごすワケねえだろ。
生まれた時からコックになるって決まってたんだよ、オレはな」
「そうなんか?スゲエなサンジ!!」
冗談とも本気ともつかないその答えを、物事を深く追求しない性質の船長はそのまま受け止めて素直に感動する。
「歩き始めたときから、包丁握ってたって話だからな、俺ぁ」
くすくすと喉で笑いながら、さらに大風呂敷を広げていくが、そのたびに、へー!だのほー!だのと感嘆の声を上げるルフィの声を
背中で聞き、腕に積んでいた皿をシンクに入れた。先に水に浸してあったナイフを手に取って、ふとサンジは目を細める。

ちょっと違うんだけどな。
コイツを持つために生まれたんじゃなくて、コイツがオレを生かしてくれたんだ。




すぐ戻るからここで待っていろ、と言われて扉が閉められた。誕生祝いに見学に行こうと連れて行かれた有名な客船の、その倉庫。
あれは、父親だったのかそれすらも朧気な記憶の中。
いくら待っても迎えが来ることは無かったが、そこから動くことも出来ず、どのくらい時間が経っていたのだろう。
空腹に耐え切れずに、手近な袋から取り出した堅い野菜を齧っていた。
暫くして乗員に発見された時には、船はとっくに港を離れた後で引き返すことも出来ず、次の島に着くまで預かられることになった。

厨房の片隅に邪魔にならないように置かれた椅子。何冊かの本を与えられて一日中そこに座っている。
チョロチョロされては困るし、一番人の出入りがある場所だったので、安全だといえば安全だったからだ。
倉庫の中で目にした食材が、次々と華やかに姿を変えて人々の手に渡り、カウンター越しに見えるテーブルには、それを口にした客たちの
笑顔が絶えない。ふと壁際に目を向けると、業務用の大きなゴミ箱に野菜の切れ端が積まれていた。そっと取り出し、隣の箱からは缶詰の蓋と
思われる薄い板を手にして、椅子へと戻った。
厨房の中でてきぱきと動く包丁の動きを、見よう見まねで自分の手に覚えこませる。
動くなと言われていたから、イスからは離れずひたすらその作業を繰り返し、気がつけば何時間も経っていた。
包丁ではないもので、無理やり小さな野菜屑を削いで居たので、掌にはいくつも傷がつき血が出ていたけれど、それすらも気にならないくらい
夢中になっていた。不意に目の前に人影が現れ、はっと顔を上げる。
ここの料理長だった。逆光で顔は良く見えなかったが、怒られると思い首を竦めた。だが、降ってきたのは驚いたような明るい声で。
「おい、小せえナイフあったろ、あれコイツに貸してやれ。芋の皮向きくらいやれそうだぞ」
手の中のステンレス片を取り上げられ、代わりに小さな果物ナイフが手渡される。
焦がれていた本物の包丁。
これがあれば、あんなふうになれるのだと。
こんな風に捨てられて、力も無く動くことも出来ない自分ではなく、何かを与えられる存在になれるのだと。
冷たかった体に急速に血が通っていくような高揚感。
それを手にすることで新しい世界に、もう一度生まれ変わったような気がしていた。




「今日くれえ、ゆっくり休んでりゃいいんじゃねえか?」
サンジの誕生日に合わせて島に着くように、有能な航海士はスケジュールを調整し、今日くらいはお休みを、と高価ではないが味が良いと
評判のレストランを見つけて、ささやかなパーティを開いてくれた。
ほろ酔い気分で船に戻りそれぞれ部屋に向かう中、ぐいとゾロに袖を引かれる。”2次会”のお誘いかよと、ある程度予想していたサンジは
苦笑しながら、他のメンバーからは見えないように小さく親指でキッチンを指した。
部屋に入るなり背後から抱きすくめてきたゾロを、がっつくなよマナー悪ぃな、とからかうように諌め、テーブルの上に小さなランプを置いて、
手早く2品ほどつまみを用意して皿に乗せる。
「腹は一杯だけどな、飲みなおすならちょっとは要るだろ。つうか一日一回は包丁握らねえとおちつかねえんだよ」
かたん、とチーズを切って軽く洗った包丁をラックに置いた。

「それはかまわねえんだが、ここでヤってもいいんか?ってことだけ確認しときてえな」
「てめえは、ホントにデリカシーって言葉から最も遠いところに居る男だよな。ついでにテメエのナニ切り落としてやってもいいんだぜ」
「テメエのほうがデリカしくねえだろ。ここですんの嫌がるじゃねえか、いつも」
「まーな。オレの聖域だし誰かくっかもしれねえからな。でもまあ、今日はみんな寝てるだろきっと」
冷蔵庫から出した酒を注ぎ、ゾロの隣に腰を下ろすとカンパイ!とグラスを合わせた。
酒は良いからテメエを食わせろ、と訴えて来る空気をぴりぴりと感じ取りながら、だが食われる前に酒に浸して酔っ払ったことにしておかないと、
今日の気分ではうっかり羽目をはずしてしまいそうだった。後々の言い訳の為にと、強めの酒を喉に流し込む。
自分も決して余裕があるわけではないが、どうせあとで余裕がなくなってしまうのは判っている。今くらいは焦らしてやろうと殊更ゆっくり味わっていた。
グラスと置くと腕を引かれ、酒に濡れた唇を塞がれる。
「酒残ってるぞ。つまみも」
「後で食う。明日になっちまうだろ」
少しだけ唇を離しサンジが笑みを作ってそう言うと、急かす様な口調で短く返され、今度は何も言わせないとばかりに、舌を押し込めてきた。
コイツでも誕生日なんてものに拘っているのかと思うと、カラダの欲とは別のルートで、心臓が熱を持ち始める。
ぐっと自分のほうの余裕が無くなった気がして、サンジはゾロの舌を味わうことだけに意識を向け始めた。

腕の中に抱きこまれるようにして口付けられながら、悔しいくらい広いその胸のざらざらとした傷跡に、シャツの上から指を這わせる。
凄い男だと思った。この傷がつけられたあの鮮烈な場面に居合わせることが出来た自分を、本当に幸運だと思う。
その気になれば女なんて不自由しないだろうに、どこが良いのか知らないが、この男が欲しがっているのは決して触り心地が良いとはいえない、
自分の体なのだ。あの限りない力を秘めた手が腕が、自分を求めているかと思うと笑えるような、満たされたような気分になる。
去年の誕生日には、来年の今日をこんな場所でこんな男と過ごそうとは微塵も想像していなかった。
変えたのはあの船長と、この剣士だ。

あんときの感覚と似てるな。
憧れて、手に入れて、オレを生かす方法を教えてくれた、あのナイフみたいに。


「・・っは・・・」
服の上から腰の辺りを撫でられ、思わず息が弾む。
「床、行くか?」
力が入らなくなってきたのを察したのか、ゾロが腕を支えて立ち上らせ場所を変えようと促す。
「立てるっての、一人で」
「そうか?ずいぶん腰にキてるみたいだからと思ってよ」」
振り払われた手でそのままサンジの髪を撫で、にっと歯を見せて席を立つと、棚の奥から厚手のクロスを取り出し床の隅に広げた。
図星を指されたサンジは、舌打ちをして立ち上がり、ついでにランプの灯りも消してゾロに近寄っていく。
振り向いた頭を抱えるようにして口付け、ぺろりと舌を出した。
「ちょーしにのんな、クソマリモ。オレを祝おうってんなら、気合入れてサービスしろよ」
「言ったからには後悔すんなよ、手加減してやんねえからな」
首にぶら下がるようにして床に倒され、耳元で囁かれた言葉に肌がぞくりと粟立つ。
あれ以上気合を入れられたら困るのは自分自身なのだということは、良く知っているのだが、どうにも歯止めが効かなかった。


「っ・・」
耳朶を噛んだ後、ゆっくりと唇が降りて行き、服を脱がしながらゾロの掌が肌に触れてくる。
与えられることに慣れてきた体はその一つ一つに過敏な反応を示し、まともな意識があるうちはいちいち気になってしょうがない。
くそ、早くワケわかんなくなったほうが良いんだけどな、と思いながら目を開くと、窓からの月明かりの中、熱を持った眼差しが自分を
見下ろしている。どくんと、体の中心の熱さが増した気がした。
先刻から脚にぶつかって来るゾロの熱塊も同じように力を増して、早く受け入れてやりてえな、と変に愛しいような気分になる。
あの凶悪なモノを愛しいっつーのは、どうかと思うけどよ。
心の中でツッコミを入れていると、不意にその場所を握りこまれ、何時の間に用意したのか濡れた指先がゆっくりと体の奥に侵入してくる。
次に訪れるであろう快楽の波に覚悟を決めていたのだが、意図的にポイントを外され焦らすような指の動きが、酷くまどろっこしい。
「てめっ・・・この」
「なんだよ?」
睨みあげる顔を覗き込まれ、意地悪くゾロが笑う。変に挑発するんじゃなかったと、早くも後悔していた。
「クソっ・・・っは・・・ぁ」」
勝手に乱れていく息に、ゾロも焦れて来たのか、解放へ向けて快楽を与えていく。限界はすぐ訪れた。
「んっ・・ああ!」
何時もよりも深い射精感に、口を押さえていた手が震えるが、息を整える間もなく、ゾロがぐっと体を開いて来る。
「こ・・のやろ。気合入れすぎ・・だ」
「悦過ぎたか?悪いな」
ムカつく野郎だと思いながらも、望み通りそのあたりから曖昧になってきた意識のお陰で自分がどんな醜態を晒したのかは
覚えては居ない。ただ、ゾロという存在を全身で受け止めていた。
世界が変わったのは良いけど、こういうのはどうなんだろうと、意識を飛ばす寸前にふとそんな言葉が頭に浮かぶ。
けれど受け入れながらも、満たしてやってるんだと思う充足感は何ものにも代えられないものだった。


気がつくと堅い腕を枕に眠っていた。顔を上げると満たされたような顔で眠るゾロの姿。
「満足したかよ、クソマリモ」
オレは腹いっぱいだけどなと、すっかりだるくなった体を起こしながら呟く。どこが誕生日サービスなのかと思ったが、言われてみれば何時もよりも
触れる手が少しだけ優しかった気がするし、少しだけキスの回数が多かった気がする。
うつぶせたまま煙草に火をつけ、もう一度だけ指で胸に大きく刻まれたその傷をなぞった。

多分この体はこれからもっと強くなり、もっと凄い男になっていく。
今は自分の手の届くところに居るが、きっとどこまでも遠くまで、新しい世界へと向かっていくのだろう。
けれど来年もその次も、今日という日はこの腕と共に居られたらいいなと、心の片隅でそう願っていた。
その時もまたこんなふうに求められ、満たして何かを与えられてやれたら、
それがまた自分を生かす糧となる。

まあ、オレは当分コイツで満足してるし、オレをこんなにしやがって、途中で飽きたなんて抜かしやがったらその場でぶっ殺してやるけどな。
ならば当分は安泰なのだろうか。
「死ぬまで食わしてやるよ。その前にちゃんと、そこのつまみ食っとけよな」
煙草を床で揉み消し、サンジはゾロの耳元で呟いた。





■大好きなサイト様宅のサンジ君誕生日記念SSをちゃっかり

頂いてきましたvv素敵ですねエ…。誕生日にサンジ君を気遣うロロと

やっぱり素直になれないサンジ君vv有架様宅の男らしい二人の

ラブ小説。おりがとう御座いました〜vv■

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