ホットミルク

静かな夜のキッチンに響く皿のぶつかり合う音。

サンジは夕食に使われた皿を洗いながら頬を綻ばせる。

高級レストランで働いていた時には山のように出た残飯も、

この船に乗ってからはその欠片も見ていない。

気持ち良く綺麗に空けられた、バラティエの時よりも多い皿。

それの最後の一枚を洗い終え、サンジは携帯している懐中時計

を取り出すと、煙草を咥えて次にここを訪れる人のために

新しく鍋を火に掛けた。

*****

「サンジ〜次、風呂開いたぞ」

ドアから控えめに顔を覗かせたのはチョッパー。

湯上りで、ピンと立った毛先からはほこほこと湯気が立っている。

充分に拭いていないのか、鼻先や耳からは水がポタポタ落ちている。

帽子を被っていないまん丸いチョッパーの頭に、フワりとタオルが

乗せられた。

ゾロだ。

「ちゃんと拭けって言っただろ?」

言いながらゾロはチョッパーを抱えてキッチンに入ってくる。

サンジは軽く笑ってチョッパーとゾロに座るように促した。

チョッパーを膝に乗せたまま、ゾロは軽く首を捻る。

「今日は寝酒くれんのか?」

ゾロも一緒に風呂だったのか、いつもよりしっとりした髪を伝って、

左耳のピアスに水滴が付いていた。

サンジはゾロを見て、肩に掛かっているタオルで、その水滴を拭うと

食器棚からカップを二つ持ってきた。

「チョッパーがな、最近あんまし寝むれねぇんだっつうからさ、

ホットミルクでも作ろっかなって」

ウソップが、蹄の手では持ちにくいだろうと、チョッパー用に作った

取っ手が両方についた小さめなカップに、先刻作った

ホットミルクを注いだ。

螺旋を描きながら、ゆっくりとカップを満たしていく白い液体を

チョッパーは目をキラキラさせながら見つめていて。

つられたようにカップを見ていたゾロが顔を上げると、サンジが自分を

見ていて、ゾロはムっと唇を尖らせた。

「…見てんなよ…」

「お前も飲む?」

「!」

ほこほこと湯気を立てているカップに、チョッパー好みになるように

蜂蜜を入れてやった。

「ほら、熱いからゆっくり飲めよ?」

「うんvv」

嬉しそうにカップを啜るチョッパーに目を細めると、サンジはチョッパーの

目の高さに合わせて低くしていた腰を上げて、またシンクに戻った。

「…いらねぇぞ…」

「…」

サンジが自分の分のミルクを作ろうとしているのに気付き、ゾロは

そっぽ向いた。クック…と笑うサンジに、更に眉間に皺を寄せる。

「何でだ?ゾロ、これ凄い美味いぞv」

甘い湯煙に鼻をヒクヒクさせながら、嬉しそうに自分を見上げる

チョッパーにあいまいに微笑み返し、ゾロは「ちくしょう」と呟いた。

チョッパーが居るからコイツは、サンジは俺にミルクを勧めるんだ。

断われないって知ってるから・・・。

その間にもサンジは、ミルクを作り終わってしまったようで。

ゾロ用の大きなカップを取り出して振り返った。

「出〜来た!」

にっこり笑うサンジに、ゾロは益々不機嫌そうに顔を顰める。

早くココを出たいが、生憎膝にはチョッパーを乗せていて…。

「甘いのは飲まねぇぞ…」

渋々そう言うと、サンジはまた、ははっと笑うとカップを目の前に

置いた。

そしてゾロの目を見ながらゆっくりカップにミルクを注ぐ。

「…あ…」

それはチョッパーの時のような甘い匂いはしなくて…。

鼻を擽るのはほんのりとブランデーの香りだけ。

「お前にはコレ。香り付けにブランデー入れたし。蜂蜜も入って

ねぇからさ、飲めんだろ?」

「……」

ゾロはカップに口を付けながらサンジを見る。

「…いただきます…」

「はい、召し上がれ」

律儀に声を掛けるゾロに答えながら、サンジは自分にも同じ物を注いだ。

先に飲み終わったのか、チョッパーはカップを抱えたまま眠そうに

首を前後に揺らしている。

静かなキッチンに響くのは、猫舌なゾロがミルクを冷ます息の音と、

サンジがミルクを啜る音。

「…美味い」

やっと一口目を飲んだゾロは、それでも少し熱かったのか目を潤ませながら

そう言った。

チョッパーはすっかり寝入ったようで、健やかな寝息を立てている。

「だろ?」

サンジもそう言って、飲み終えたカップを手の中でころがして笑った。

カップをシンクに置いて、ゾロの膝の上で眠ったチョッパーを抱える。

「…寝ちまったな」

ゾロはカップに唇を付けたまま呟いた。サンジはチョッパーを抱いたまま

ゾロを見下ろした。まだゾロのカップにはミルクが半分残っている。

「俺のミルクはよく効くんだよ。朝までぐっすりだ」

「……」

「酒より体にいいし、お前一応まだ成長期だし?」

「……」

「ココでしか…飲まねぇだろ、ミルクなんてさ」

「……」

「明日も来いよ。チョッパーにも効いてるし」

「……」

「ゾロ?」

随分冷めたのか、ゾロはサンジの台詞には答えず、残ったモノを全部

飲み干した。

そのまま、奪うようにチョッパーをサンジから抱き返すと下を向いたまま

ボソっと、何か呟いた。

「…え?何、ゾロ」

効き返したサンジに、ゾロはゆっくり顔を上げた。その顔は心成しか

少し赤くて…。

「明日は…」

「…?」

「…も少し、冷ましとけよ…」

「…!え///」

そう言って、さっきより真っ赤になった顔を隠すようにチョッパーを抱えると、

いきおいよくキッチンの扉まで歩んで。

そして

「…美味かった!サンジ」

それだけ言って、ゾロはバタンッ!と扉を閉めた。

残されたサンジは一人呆然として…。

初めてゾロが「美味い」と言ってくれたことが。

初めてゾロが「サンジ」と呼んでくれたことが。

「…やべ…///」

残った小さなカップと大きなカップの見つめて、キッチンを包むブランデーの

香りにに紛れたゾロの匂いに、サンジは口元を手で覆いながら

小さく漏れた言葉が、月夜に溶けていくのを静かに見送っていた。

                       ***end***

 

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初めて書いたサンゾロもどき(笑)サンゾロなんすよ、これでも!

これからチョビットづつでも進めていきたいですvコイツらの関係♪

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